ディス・ファイア

ポーラ・コールというシンガーソングライターをご存じでしょうか。

アメリカのアーティストで、強く印象に残る歌声の女性です。

私がこのアーティストを知ったのは、かれこれ18年ほど前のことで、当時公開された『シティ・オブ・エンジェル』という映画の予告CMにポーラ・コールの歌が使われていたからでした。

とても気に入ってサントラを買ったのですが収録されておらず、当時はインターネットもしていなかったために、一切情報が手に入りませんでした。

それでも諦めきれず、ダメ元で近所のCDショップで聞いてみようと思ったのです。そこは少し年配のご夫婦が経営していたため、きっとわからないだろうと半分諦めていました。

しかしお店に入ると、そこにいたのは若い男性店員さんでした。経営者夫婦の息子さんだそうで、私が探している曲のことを伝えると「ポーラ・コールの『アイ・ドント・ウォント・トゥ・ウェイ』」ですよ」と笑顔で即答してくださったのです。

そして、マキシシングルとアルバムの両方を持ってきてくれました。

「あの曲だけが目的ならシングルでもいいけど、このアーティストはとてもオススメなんです。できればアルバムを買ったほうが満足できると思うんですよ」と、アルバムを推してきます。

営業トークかなと思ったのですが、しかしポーラ・コールについて色々と教えてくださるし、かなりアルバムをき込んでいる様子だったので、信じてアルバムを購入しました。

それが、『ディス・ファイア』です。

帰宅して早速聞きましたが、店員さんの言った通りでした。

本当に素敵で、探していた曲のイメージから考えると、少し雰囲気も違います。確かにこれは、アルバムを買って正解でした。

それからずっと、そのアルバムは私の宝物で、誰かから「いいアーティストはいないか」と聞かれればポーラ・コールを推薦することもあるくらいになりました。

このアルバムに出会った経緯を思い出すたびに、今はインターネットで簡単に検索できてしまうため、CDショップの店員さんとのコミュニケーションによる出会いが減ってしまったなと少し寂しくなります。

私が通っていたCDショップも、十年ほど前になくなってしまいました。

今は他のCDショップでそこの店員さんに話しかけ、思いがけない情報をもらうことを密かな楽しみにしています。